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広島地方裁判所尾道支部 昭和60年(わ)187号 決定

被告人 N・H(昭42.6.13生)

同 I・J(昭42.8.15生)

同 B・Y(昭42.2.15生)

右N・H及びI・Jに対する殺人、右B・Yに対する殺人及び道路交通法違反各被告事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件を広島家庭裁判所福山支部に移送する。

理由

本件公訴事実の要旨は、

第一被告人らは、被告人B・Yが普通乗用自動車(トヨタマークII・福山××ぬ××××)を運転し、被告人N・H及びI・Jが同車にA、Cらとともに同乗していたものであるが、昭和60年8月17日午前2時ころ、広島県尾道市○○町××番地の×○○トラツクステーシヨン東方約50メートルの道路上で、他の自動車に乗つていたD(当時19年)ら4名と喧嘩になつて停車した際、右Dに自車の屋根へ登られ、同人を屋根に載せたまま走行中、同人に同車のフロントガラスを蹴破られたことに激昂し、同車の屋根にいる同人を路上に振り落とせば、同人が死亡するに至るかも知れないことを認識しながら、敢えて同人を路上に落とすことを企て、A、Cと共謀のうえ、同日午前2時15分ころ、同市○○町××番×号○○建設株式会社先の○○交差点先から同町××番××号所在○○地区消防本部前国道184号線上を走行中、被告人B・Yにおいて、敢えて時速約60キロメートルで、約90メートルの間小刻みにジグザグ走行した末、急ブレーキをかけて右Dを路上に転倒させ、その衝撃により頭部等を路面に強打させ、よつて、同人に頭蓋骨骨折・脳挫傷(脳幹部損傷)等の傷害を負わせ、同人をして同月21日午後3時30分ころ、広島県御調郡○○町大字○××番地公立○○総合病院において、脳挫傷により死亡するに至らせ、もつて殺害し

第二被告人B・Yは、公安委員会の運転免許を受けないで(運転免許の効力停止中)、昭和60年8月17日午前2時15分ころ、前記○○地区消防本部付近国道184号線において、前記普通乗用自動車を運転し

たものである。

というのであつて、本件各証拠によれば、「時速約60キロメートル」とあるのを「時速約40キロメートル」と訂正するほか、いずれの事実もこれを認めることができる。

被害者を転落させたジグザグ走行時の被告人車の速度の点については、証拠関係によれば、運転していた被告人B・Yは捜査段階では一貫して時速3、40キロメートル、公判廷では時速2、30キロメートルであつた旨供述し、同乗していた被告人N・Hは捜査段階では時速5、60キロメートルないし4、50キロメートル、公判廷では時速40キロメートル位と供述し、被告人I・Jは捜査段階では時速6、70キロメートル、公判廷では時速30キロメートル位と供述し、Cは捜査段階で時速約4、50キロメートルと供述し、Aは時速約5、60キロメートルと供述し、目撃者Eは時速80キロメートル位に感じた旨供述しており、このように速度についての供述は区々に分かれて一定せず、直ちにそのいずれかによることもできないところである。

しかしながら、被告人車がジグザグ走行に入る直前に○○バイパス側道から国道184号線南方へ左折する際の交差点での速度については、被告人B・YとCの供述が一致していることや右曲がり角の状況等からみて時速約2、30キロメートルであつたものと認められること、左折直後ころ被害者によつて被告人車のフロントガラスが蹴破られ、ほぼガラス全面に小さなひびが入つて夜間でもあり前方の見とおしが極端に悪化していること、左折するため減速して交差点を曲がる直前ころから被害者がフロントガラスを蹴り始め、これを蹴破つた後被害者は身体を前後入れ換えて今度は自動車後部のガラスを蹴つていたものであるが、当時被害者は走行中の自動車の屋根の上で右のような動作をする余裕があつたと認められること、ジグザグ走行時被告人B・Yはハンドルを5、6回急激に左右に切つたものの、走行中の左右幅はほば片側車線分4メートル程度に止まること(高速で右のような運転操作をすれば左右幅はかなり広がるばかりか路外逸脱の危険等も生ずるものと思われるが、本件ではその形跡はない。)、ジグザグ走行直後のブレーキによる2本のスリップ痕の長さは3.4メートル及び3メートルであること等からすると、さほど速度は出ていなかつたものと思われるほか、被告人B・Yを除く同乗者らには普通自動車の運転免許も運転経験もなく、当時速度に対して特に関心を払つていたものとも思われないこと、日撃者Eについては、沿道の○○地区消防本部一階整備室において勤務中目前を通過する自動車を静止状態で見ていたことに加えて、その屋根に人が乗つているという異常な光景に驚いたため速度を実際よりもかなり速く感じたとも考えられること等を総合すると、ゾグザグ走行時の被告人車の速度は、公訴事実のいうような時速約60キロメートルとは証拠上直ちに認め難く、その直前の左折時の速度にある程度加速した時速約40キロメートル位と推認するのが相当である。

そこで、以下、被告人らの処遇について考えてみる。

本件は、その罪質、被害者の死亡という結果、遺族の被害感情、示談未成立等の諸事情からすると、重大な事案というべきであり、検察官指摘のとおり刑事処分によるべきものと思料されないわけでもない。

しかしながら、被告人らはいずれも犯行当時18歳の少年であり、少年法の趣旨によりその処遇には格別の配慮を要するところ、次に述べる諸事情を総合考慮すると、被告人らについて矯正困難、保護不適とは直ちに断じ難く、むしろ強力厳正な保護的措置を試みて更生の途を歩ませるよう努力するのが相当であると思料する。

被告人N・Hは、中学校卒業後調理士見習や板金塗装工をしていたが、昭和58年9月30日単車盗等により保護観察処分を受け、昭和60年5月1日には道路交通法違反、業務上過失致死傷により中等少年院(交通短期)送致決定を受け、同年8月6日美保少年院を仮退院したばかりであつた。同少年院の成績経過総評によれば、甘えが強く依存的言動が目立ち、能力的に劣つて理解が伴わず、他生との間でも孤立し、沈みがちで、教育目標に真面目に取り組むものの短期処遇のため能力的に消化できないまま時が過ぎたが、能力に合わせきめ細かい個別指導が実施されれば今少し内面に訴えかけることができたのではないかと思われる旨の指摘がある。広島少年鑑別所の鑑別結果では、IQは73、理解力が劣り基礎学力も低く、3か月の少年院生活では教育指導を消化しきれなかつた、幼稚な心性が多分に残つており、本事件も見通しが甘く常識的な判断力の乏しい幼稚な人格によるものといえる、年齢に比べて幼く、刑事処分に付するよりも保護的措置を講じることが妥当であるとして、少年院送致相当の意見が付されている。

被告人I・Jは、4歳のころ父に死別し、生活に追われて母が外で稼働し、6歳上の姉が母代わりとなつて成育した。中学生のころ一時生活態度が乱れる等し、昭和58年4月25日単車の占有離脱物横領、暴行により保護観察処分を受けたが、中学校卒業後は一定の職場で比較的安定した勤労生活を続け、昭和59年11月27日保護観察は良好解除となり、この間昭和58年12月26日道路交通法違反で保護観察(交通短期)処分を受けた以外事件もなく、自律した生活ができるようになつていた。被告人N・Hは中学時代の友人、同B・Yは事件当夜初対面であつた。広島少年鑑別所の鑑別結果によれば、IQは105、人格面、情意面の問題として集団場面になると抑制がきかず調子に乗りやすい、自我が肥大しやすく自己顕示性も高くなる、過活動性、自己中心性、軽そう性を主軸にした性格特性がみられ、いまだ未熟であり、人格面での成長を促す必要があるとして、少年院送致相当の意見が付されている。

被告人B・Yは、高校中退後喫茶店のウエイターや工員として働き、日常生活に特に問題もなく、比較的落ち着いた就労状態にあつたが、昭和60年7月工員をやめ、同年9月レストランに就職の予定のところ本件非行に至つた。昭和59年10月29日道路交通法違反により講習後不処分となり、昭和60年1月21日業務上過失傷害により交通短期保護観察処分を受け、同年6月車で他の者らと夜間花火を交番に投げ込み軽犯罪法違反により本件の審判時不処分となつている。広島少年鑑別所の鑑別結果によれば、IQは99、思考のきめ細かさは単純で深く考える力を欠き、年令に比し幼稚である、感情面はおとなしく粗暴な面はないが、わがままで、車を介して自己顕示性の充足をはかる傾向がある、気が弱く小心で、ひとりでは大胆なことはできないが、自己の欲求は曲げず、我を通してゆく傾向が強い、対人的には従属的、受身的で、いいなりになりやすい、車に溺れ振り回されて規範性が著しく低下しており、問題性解決のため保護処分が適しているとして、少年院送致相当の意見が付されている。

以上のように、被告人らについては、いわゆる年長少年ではあるが、いずれも人格的特性として年令に比して幼稚、未熟等とされ、鑑別所により少年院送致相当の意見が付され、また、その処遇歴をみてもほぼ車関係の非行に限られている等特段犯罪的傾向が固着しているともみられず、十分矯正可能であると認められ(被告人N・Hについては、個別的かつ能力に応じたきめ細かい指導を要するといえる。)、保護処分に適しているものといわなければならない。

ところで、本件は、被告人らが自動車に乗つて福山市内を走行中、たまたま通りかかつた被害者ら分乗の自動車2台を見掛け、その同乗者らが窓枠に腰を掛け上体を車外に出すいわゆる箱乗りをしていたところから、よそ者に対する排斥意識も手伝つて右自動車を追いかけて競争状態になり、被害者の自動車とカセツトテープを投げ合う等していたところ、被害者の自動車のリアウインドのガラスにひびが入り破損したため、双方が停車して喧嘩状態になつたが、被告人らが被害者らの剣幕におそれをなして守勢に転じて逃げようとした際、被害者が果敢にも走り出した被告人車のトランクに飛び乗つて屋根に登り、さらに走行中フロントガラスを蹴破つたことから、被告人らが立腹し、被害者を路上に振り落したというものである。本件は、右のような背景、動機、態様等に照らしてみると、殺人の通常の形態とはかなり相違する特異な事例であり、被害者の予想外の行為も結果発生に大きく介在した多分に偶発的な事件であると目される。また、被害者はたまたま頭部から転落したが、解剖所見によれば頭部以外には背部四肢等に擦過傷等があるものの骨折や内臓損傷はないので、あるいは頭部から落下しなければ少なくとも生命に別条はなかつたのではないかとも考えられ、この点でも本件は最悪の経過をたどつたものといえるほか、未必の故意の内容程度についても、前記認定のようなジグザグ走行時の速度の関係や共犯少年ら各人における自動車の屋根の上の被害者の姿勢等についての認識が必ずしも一致していなかつたこと等からすると、傷害致死罪との限界事例に近いものともいいうる側面がある。そして、本件はいずれも17、8歳の少年たちが自動車という密室内で集団的な興奮状態に陥り、各人の意思が肥大増幅したいわば集団意思の支配下での突発的な事態であつたともいえ、個々の少年に着目すると、事案の重大性に比較して、これに対応する犯罪的人格傾向が顕著であるわけでもなく、むしろ人格的な未熟さ、幼稚さ、危険に対する認識や判断の甘さ等がもつぱら特徴的であり、結局、本件は被告人らの人格的未熟さ等故に惹起され、車という危険物を媒介としたが故に重大結果を生ぜしめた非行であるということができる。このように、本件では事案の特質自体に矯正教育の対象となりうる問題性が多分に内包されているものといわなければならない。

他方、被告人ら以外の本件の共犯者についての処遇をみるに、C(昭和42年8月29日生)は中等少年院送致決定を受け、A(昭和43年7月31日生)は保護観察処分を受けているが、本件犯行共謀時の集団意思形成面での役割において右共犯者らと被告人らとの間にさほどの差異があつたとも認め難いところであり、年令面や処遇歴等に多少の差異があるとしても、被告人らに対してのみ刑事処分をもつて臨むことは、前記のように被告人らがいずれも保護処分に適しているが故に、処遇の均衡上ためらいがある。そして、被告人B・Yについては自動車の運転者という立場にあつたとはいえ、犯行当時の自動車内の状況からすれば、いわば集団意思の支配の下でその手足となつていたと評すべく、前記右被告人の「ひとりでは大胆なことはできない、対人的には従属的、受身的で、いいなりになりやすい」との性向からみて、右集団意思に追従していたにすぎないともいえ、その運転行為をもつて他の共犯者らの罪責との比較において特に重いものともなし難い。

被告人らは、公訴を提起され、公開の法廷においてその罪責を糾明され、未決勾留も長期にわたり、保釈後は塗装工や工員として真面目に就労している状況にあり、本件公判審理を通じて事の重大性を認識し、反省悔悟の機会を持ちつつあり、この面での戒告的効果も認められる。なお、示談については、当然とはいえ遺族の被害意識が強く、その居住地が遠方で、関係者が多い等の諸事情により進展をみせていないが、被告人らは弁護士にその交渉を依頼している現状にあり、その未成立をもつて直ちに被告人らの処分の決め手とすることは得策とは思われない。

以上のような被告人らの性格傾向、矯正可能性、未熟さ故の事案の特質や偶発的側面、未必の故意の内容程度、共犯少年らの処遇との対比、審理中の被告人らの態度等を総合考慮すると、刑事処分による画一的処遇の下で被告人らの未熟な情性を固定させる危険をおかすよりは前記少年鑑別所の処遇意見のように施設収容による厳格な矯正教育を施すのが相当であり、そうすることがより高次の刑政の目的に沿う所以であると思料する。

よつて、少年法55条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 下江一成 矢延正平)

〔参照〕受移送審

1 少年N・Hに対する殺人保護事件

(広島家福山支 昭61(少)377号 昭61.5.2決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

(中略)

(罰条)

刑法60条、199条

(処遇の理由)

少年は、昭和60年5月1日、当庁において、業務上過失致死傷、道路交通法違反保護事件により、中等少年院に送致され、美保少年院においては1、規範意識を確立させること、2、基本的生活習慣を身につけさせることを教育目標に処遇がなされたのに、昭和60年8月6日に仮退院して12日後に本件非行に至つているという少年の処遇歴及び本件非行は、大阪からドライブしてきた被害者のグループに対し、少年達においてこれを誘発し、被害者の運転する車両後ろガラスを破損したことから被害者はこれに激昂し、逃走しようとしたB・Y運転自動車を停止させようと右車両に飛び乗つたのを奇貨として被害者にリンチを加えることを目的に誘拐することを企て、遂には、未必の故意のもと被害者を殺害するに至つたというものであるというのであって、その非行の重大性、悪質性を考慮すると、少年を検察官に送致することも考えられないわけではない。

しかしながら、少年は前記処遇においても、その非行内容から交通短期の教育がなされたにすぎず、処遇過程においても、少年は自己の問題点に対する自覚が甘く、理解力、内省力が劣るため充分な教育が施されたものとはいえないうえ、本件非行内容も、少年は低知能や社会性の未熟さから、行為の重大性を十分に認識しえず、人命の尊さにもおもいいたらず、かつ罪償感も十分に持ちあわせていないことから非行を指示し、主導的に扇動していたことが認められ、以上の諸事情に加えて、監護権者に充分な指導監督能力も認められないなどの保護環境、悪友との交遊関係などの生活環境を考慮すると、規範意識を養い、基本的な生活習慣を身につけさせ、人格的な成長を促すため、今一度、長期にわたつて再教育を施すことが必要である。

よつて、少年の健全な保護育成を期するため、少年を中等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 坂井良和)

2 少年I・Jに対する殺人保護事件

(広島家福山支 昭61(少)378 昭61.5.2決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

(中略)

(罰条)

刑法60条、199条

(処遇の理由)

少年は、昭和58年4月25日、当庁において、占有離脱物横領、暴行保護事件において保護観察の決定を受けたが、昭和58年11月21日から左官として稼働し始め、生活環境が好転したことから、昭和59年11月27日、右保護観察も解除され、生活状況も安定していたのに、少年の潜在的な性格、すなわち、爆発性、過活動性から自我が肥大し、自已顕示的な言動を示しやすく、規範を軽視し、自分勝手な感情に左右された判断で行動しやすい性格が露出し、共犯者N・Hが少年院から仮退院し、グループで遊興していた際にグループでの雰囲気にのまれ、本件非行に至つたものであつて、本件非行も、大阪からドライブしてきた被害者のグループに対し、少年達においてこれを誘発し、被害者の運転する車両後ろガラスを破損したことから被害者はこれに激昂し、逃走しようとしたB・Y運転自動車を停止させようと右車両に飛び乗つたのを奇貨として被害者にリンチを加えることを目的に誘拐することを企て、遂には未必の故意のもと被害者を殺害するに至つたという事案であつて、偶発的非行ではあるものの悪質であり、その結果も重大である。

また、少年は、本件非行後も、就労を続け、徒遊性は認められず、一応の反省はできているものの、本件で一番悪い奴はN・Hであつて、自分は運が悪るかつたというように他罰的傾向はいまだ矯正されず、内省の深まりはない。

以上の諸事情のみならず、唯一の親権者である母に少年を指導する能力に欠けることなどの保護環境を考慮すると、少年を中等少年院に送致し、本件非行の結果の重大性を再認識させ、責任の重さを自覚させ、そのことによつて、少年の規範意識を高め、軽卒な行動を制禦することのできる性格に矯正する必要がある。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 坂井良和)

3 少年B・Yに対する殺人、道路交通法違反保護事件

(広島家福山支 昭61(少)379 昭61.5.2決定)

主文

少年を中等少年院へ送致する。

理由

(非行事実)

(中略)

(罰条)

第一の事実につき刑法60条、199条

第二の事実につき道路交通法118条1項1号、64条

(処遇の理由)

1 本件第一の非行は、大阪からドライブしてきた被害者のグループに対し、少年達においてこれを誘発し、被害者の運転する車両後ろガラスを破損したことから被害者はこれに激昂し、逃走しようとした少年運転の自動車を停止させようと右車両に飛び乗つたのを奇貨として被害者にリンチを加えることを目的に誘拐することを企て、遂には、未必の故意のもと被害者を殺害するに至つたというものであつて、被害者に格別の落度もないのに死の結果を招いた少年等の責任は重大である。

2 少年の本件第一の非行へのかかわりをみると、グループ内で他に運転することができる者がいなかつたことから、免許効力停止中の少年が自動車を運転することとなり、また、共犯者N・H、I・Jらの扇動に乗つて被害者グループを追いまわし、遂には被害者を殺害するに至つているのであつて、少年の性格特性である対人的従属性、受身的、同調的な側面がいみじくも顕出した事案であることが認められる。

3 少年の非行歴をみると、業務上過失傷害(交通短期保護観察)、交通取締りを受けたことに対するうつぷんを晴らすため警察官派出所への嫌がらせによる軽犯罪法違反事件があり、充分な矯正教育を受けたことがないこともあつて、末つ子として両親に甘やかされて育つた少年が、家庭内で顕示欲が満されないときには購入したバイクに溺れ、交通違反を繰返すなど適切な指導がなされなかつたことによる社会規範に対する軽視的傾向がうかがわれるなど、少年には年令に比して幼稚で未発達な行動傾向がみうけられる。

4 本件非行後、保釈金の調達等で親に経済的負担をかけたことなどから生活も安定し、施設等への収容も覚悟するという意味での反省はできているものの、自己の性格の矯正などへの内省の深まりがなく、その反省も単純で表面的である。

以上の諸事情、すなわち、本件第一の非行の重大性、少年の自律性のない性格、未熟な発育(但し、少年の知能は普通域)、内省の深まりの欠如を考慮すると、少年を中等少年院に送致し、本件第一の非行結果の重大性を身をもつて体験させ、少年に自律性を植えつけ、知能に相応する社会規範を身につけさせることが必要である。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 坂井良和)

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